「N-NOSE®(線虫の鼻:nematode noseより命名)」は線虫を用いたがんリスク検査法です。
検査には受検者の尿検体を用います。この検査法は、線虫(学名:C. elegans)が尿中のがんの匂いを検知できることを利用します。線虫を匂いセンサとして利用することで、がんリスクの検出を可能としました。
私たちは、この独自の技術でがんが早期発見できる世界を支援し、人々の健康と未来の安心を守ります。
臨床検査の性能 (感度・特異度・AUC・陽性的中率)
N-NOSEをご理解いただくための基本である臨床検査の性能について説明します。これらの説明は一般の臨床検査における考え方ですが、N-NOSEもこれらに従って開発、実用化されています。
感度・特異度とは
感度とは、疾病のある人のうちで陽性となる割合を示し、特異度とは、疾病のない人のうちで陰性となる割合を示します。N-NOSEにおける臨床研究でも、がんの診断補助に使われるバイオマーカーと同様の研究手法で感度と特異度を算出しています。
「感度・特異度」の詳細AUCとは
AUC(Area Under the Curve)とは、ROC(Receiver Operating
Characteristic)曲線より下の面積のことで、1.0に近いほど検査の分離能が優れている(高感度、高特異度)ことを示します。
感度と特異度は相反する関係にあります。がんのスクリーニングでは、がん有病率が相当に低いことから高感度の検査による「がん疑い」の抽出が求められます。
陽性的中率とは
陽性的中率とは、検査陽性全体に対して真の陽性が占める割合のことです。がんのスクリーニングでは、がん有病率が相当に低いことから、ハイリスクの対象を高い感度の検査により選定することが重要です。
「陽性的中率」の詳細N-NOSEの開発: 基礎研究
N-NOSEの開発に至るまでの基礎研究と、その成果をご紹介します。
基礎研究の要旨
広津は東京大学大学院での研究として線虫C. elegansに着目しました。
C.
elegansは全遺伝情報および全細胞系譜が同定されており、モデル生物としていくつものノーベル賞の受賞研究に使われ、医学・生物学の発展に大きく貢献してきた生物です。C.
elegansの嗅覚受容体様遺伝子は約1,200種類であり、ヒト:約350種類、イヌ:約800種類に比べて多いことから、匂いの識別において大変優れています。
広津はC.
elegansの嗅覚と様々な生体シグナルの関係を明らかにしてきました。2000年にはRas-MAPK経路の嗅覚への関与を世界で初めて解明し、この研究成果は世界最高峰の科学誌であるNatureに掲載されました。その後、嗅覚順応、匂い走性の高精度評価、嗅覚可塑性、高濃度忌避、嗅覚受容体などに関する多くの研究成果がScience誌、Nature姉妹誌、Science姉妹誌などに掲載され、2015年にはがん細胞の培養上清液に対してC. elegansが誘引される現象を発見しました。
これらの基礎研究の積み重ねにより、「N-NOSE」という世界初の生物検査の開発に至りました。
N-NOSEの開発: 臨床研究
N-NOSEの臨床研究の論文についてお伝えいたします。
臨床研究の要旨
広津は2015年にN-NOSEによる初の臨床研究の成果として、至適濃度に希釈した尿を検体とすることで「線虫の嗅覚応答の違いに基づくがん匂い検知技術」が高い感度と特異度を示すことを発表しました。その後の臨床研究において、①N-NOSEインデックスはがんの切除後に減少する(線虫の走性行動はがんの匂いに応答している)こと、②消化器系がん患者群と健常群間で高い分離能を示すこと、③2濃度による判定法を使うことでより高い感度と特異度が得られることを発表しました。これまでに消化器系がん、(早期)膵がん、小児がん、食道がんに対する当社の臨床研究の成果が論文で公表されています。特に早期膵がんの研究は高く評価され、2021年夏の掲載誌の表紙を飾るものとなりました。このように、数多くの臨床研究の成果をもとにNーNOSEは実用化されています。
現在も当社の研究部門は、「さまざまながん種への適用拡大」「がん患者に対する治療後の経過観察(予後予測)」などの多くの臨床研究を継続して行い、N-NOSEのさらなる検査精度向上に努めております。
N-NOSEの実用化
N-NOSE検査の安定性・信頼性
N-NOSEの実用化では、臨床研究データに基づくアルゴリズムにより「リスク値」を算出しリスク判定を行います。これらの検査は自動解析装置により行われ、人間の恣意は全く介入しません。なお、リスク判定は陽性/陰性判定とは異なり、高リスク=陽性ではないことに留意ください。
N-NOSEでは、尿検体に対して至適濃度で数十回の検査を行います。自動解析装置により得られた線虫の行動解析値に対し、臨床研究データに基づく統計学的な手法により構築した独自のアルゴリズムによる自動演算処理を行い、検査時における全身のがんリスクをA,B,C,D,Eとして判定します。なお、検体チューブや解析シャーレにはすべてIDが付与されており、検体の取り間違えは発生しません。
検査結果は以下の図のように示され、結果報告書には受検後の対応についての解説が記載されています。
N-NOSE検査結果報告書と受検後の流れ(一部抜粋)
当社は高リスク受検者に対して「安心アフターサービス(無料)」を提供しています。検査結果の解説や相談に対するアドバイス、医療機関の案内、健康診断や人間ドックの予約代行など、看護師をはじめとした専門スタッフが対応しています。「安心アフターサービス」の利用については相談回数の制限がなく、高リスク受検者に対して最大限のアフターケアを実施しています。
検査結果の集計データから見るN-NOSEの安定性と高精度(2021年3月~2023年2月)
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2021年に集計開始して以来、いずれの集計期間においても、各リスク比に対するN-NOSE受検者割合に顕著な変動はありません。これは自動解析装置により安定した検査が行われてきたことを意味します(2023年10月現在、N-NOSE受検者数は50万人以上)。
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当検査で高リスクと判定される割合は全体の約5%相当になります。これは日本人の粗がん罹患率(約1%)*に近い割合です。N-NOSEは、他のがん検査では発見困難な早期がん(ステージ0, I)でも高精度で検出可能なため、高リスク判定者は必然的に日本人の粗がん罹患率よりも少し高い割合を示します。
* 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)より