臨床検査の性能 (感度・特異度・AUC・陽性的中率)
感度・特異度とは
臨床検査における感度と特異度について解説します。まずは、がんの診断の補助に使われるバイオマーカーの添付文書を例に説明します。次に感度と特異度などについて、理想的検査と通常検査の違いを例として説明します。
添付文書における感度と特異度の表記
例:バイオマーカー(がんの診断の補助)
Aの検査では、真のがん群106例に対して検査陽性が67例で陽性率は63.2%(67/106)となります。この陽性率が感度となります。一方、真の陰性である健常群106例に対して検査陰性は101例で陰性率は95.3%(101/106)となります。この陰性率が特異度となります。Bの検査も同様です。
このように、添付文書における感度と特異度は、がん群と健常群からそれぞれ算出し表記されています。
N-NOSEにおける臨床研究でも同様の研究手法で感度と特異度を算出しております。
理想的検査と通常の検査/感度と特異度
- 理想的な検査例
- 真の陽性群と真の陰性群が検査において完全に分離する理想的な検査の場合、感度は100%(30/30)特異度も100%(100/100)、陽性的中率*も100%(30/30)となる。
- 通常の検査例
- 通常は真の陽性群と真の陰性群が検査において重なる結果となる。上記の例では感度は90%(27/30)特異度は95%(95/100)、陽性的中率*は84.4%(27/32)となる。
AUCとは
ROC解析-カットオフ(閾値)による感度と特異度
ROC:Receiver Operating Characteristic(受信者動作特性)
元々は軍事技術(レーダー信号のノイズの中から敵機の存在を検出するための方法)として開発されており、シグナルの検出能力(感度)を上げた際に、どの程度ノイズが混在するのかを表しています。
ROC曲線は、縦軸に真陽性率(感度)、横軸に偽陽性率(1-特異度)をプロットしたもので、カットオフの違いによる感度と特異度の関係を示します。縦軸と横軸の範囲は 0.0~1.0になります。
AUC(Area Under the Curve)はROC曲線下面積のことで、1.0に近いほど検査の分離能(感度・特異度)が優れることを示します。
感度と特異度を分けるカットオフとは?
診断的検査において、陽性・陰性の診断となる閾値(cut-off値)は、疾患群と非疾患群による症例対照研究から設定されます。
「高感度」「高特異度」の意味は?
感度と特異度は相反する関係にあります(トレードオフ)。検査における高感度と高特異度についてその特性を解説します。
がん群と健常群がそれぞれ下図のような集団分布を示すと仮定します。この場合、がん群と健常群は黒い破線で示されるカットオフで良好に分離されます。
可能な限り多くのがん患者を発見したい場合、赤い破線で示されるカットオフ(高感度)を設定することで、がん患者集団を網羅することができます。しかし一方で、健常者が「がん患者」として誤判定される(偽陽性)割合が増加します。
可能な限り正しくがんを診断したい場合、青い破線で示されるカットオフ(高特異度)を設定することで、誤診を避けることができます(陽性判定の信頼性が高い)。しかし一方で、がん患者の取りこぼしが発生する(偽陰性)割合が増加します。
がんのスクリーニングでは、がん有病率が相当に低いことから、高感度の検査による「がん疑い」の抽出が求められます。
陽性的中率とは
陽性的中率は、検査陽性全体に対して真の陽性が占める割合ですが、検査対象となる集団の有病率により大きく変化します。
下図の有病率のライン(1%、5%)における陽性的中率の違いに注目してください。
診断能の優れた検査(高感度、高特異度)であっても有病率が低くなると陽性的中率は大きく下がります。
陽性的中率は、特異度の高い検査ほど高く、感度の影響は少ないものです。
スクリーニング検査では、ハイリスクの対象に対して高い感度の検査により陽性を抽出し(偽陰性を少なくする)、次いで高い特異度を併せ持つ二次検査により診断がされます。
がんのスクリーニングでは、がん有病率が相当に低いことから、検査前確率を高めることが重要です。(ハイリスクによる対象の選定)