臨床研究論文のリストと要約
N-NOSEの臨床研究論文は2015年に始まります。至適濃度に希釈した尿を検体とすることで「線虫の嗅覚応答の違いに基づくがん匂い検知技術」が高い感度と特異度を示すことを発表しました1)。その後の臨床研究において、 ①N-NOSEインデックスはがんの切除後に減少する(線虫の走性行動はがんの匂いに応答している)こと2)、 ②消化器系がん患者群と健常群間で高い分離能を示すこと3)、 ③2濃度による判定法を使うことでより高い感度と特異度が得られること4)を発表しました。がん種については、消化器系がん3, 5)、膵がん6)、早期膵がん7)、小児がん8)、食道がん9)の研究成果を発表しています。特に、早期膵がんの研究は高い評価を受け、2021年8月の Oncotarget 誌の表紙となりました。このように、数多くの臨床研究の成果をもとにNーNOSEは実用化されています。
2015年
1. A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabditis elegans Scent Detection
PLOS ONE, 10(3): e0118699 (2015) (peer-reviewed)
本論文は「線虫の嗅覚応答の違いに基づくがん匂い検知技術」の原理および臨床検体への応用を報告したものです。①線虫が健常者尿に対して忌避行動を示す一方、がん患者尿に対しては誘引行動を示すこと、 ②消化器系がん、乳がんなどの患者24例に対して感度 95.8%、健常者218例に対して特異度 95.0%であったこと、 ③ステージ0, Iのがんでも検知できたことが示されています。本研究結果から、N-NOSEは安価・非侵襲・高精度を備えた「新たながん検知法」となる可能性が示唆されました。
2019年
2. Behavioural Response Alteration in Caenorhabditis elegans to Urine After Surgical Removal of Cancer: Nematode-NOSE (N-NOSE) for Postoperative Evaluation
Biomarkers in Cancer 11: 1-7, 2019 (peer-reviewed)
本論文はがん切除後のモニタリングに対するN-NOSEの有用性を検証したものです。
術前・術後に採尿を行った胃がんと大腸がん患者の計78例中、59例で術後N-NOSEインデックスが低下し、統計学的に有意であることを確認しました。本研究結果は、線虫の誘引/忌避行動が、がん特有の匂いを認識して行われていることを証明しています。
2020年
3. Efficiency of Gastrointestinal Cancer Detection by Nematode-NOSE (N-NOSE)
In Vivo, 34 (1) : 73-80, 2020 (peer-reviewed)
本論文は消化器系がん患者180例と健常者76例に対して、N-NOSEが高い分離能を示すことが明らかになったものです。
ROC解析の結果、検査の有効性を表すAUC値が0.860(全ステージ)、0.867(ステージ0,Ⅰ)を示すことを確認しました。本研究成果は、消化器系がんの早期発見に寄与するスクリーニングとして有用であることを示しています。
2021年
4. Accuracy evaluation of the C. elegans cancer test (N-NOSE) using a new combined method
Cancer Treat Res Commun 27: 100370, 2021 (peer-reviewed)
本論文は2濃度の尿希釈条件による「組み合わせ判定方法」を採用することで、より高い感度、高い特異度を実現したものです。
がん患者32例と健常者143例に対してN-NOSEは高い分離能を示し、検査の有効性を表すAUC値がそれぞれの尿希釈条件で0.9以上でした。また「組み合わせ判定方法」の結果、感度87.5%、特異度90.2%となりました。さらにN-NOSEは性別・各種合併症・腎機能・肝機能・尿一般定性との相関は認めず、「がんの有無」のみ相関を認めました。
5. Nematode-NOSE(N-NOSE)による消化器系がん検出能の検討
日本消化器がん検診学会雑誌 59(3). 237-245, 2021 (peer-reviewed)
本論文は消化器系がん6種類に対するスクリーニングとしての有用性を検証したものです。
消化器系がん74例と非がん30例に対してN-NOSEは良好な分離能を示し、検査の有効性を表すAUC値が0.774でした。腫瘍マーカーと比較してN-NOSEは高い感度を示すこと、N-NOSEは年齢・性別・各種合併症・腎機能・肝機能・尿一般定性との相関は認めず、「がんの有無」のみ相関を認めました。
6. Caenorhabditis elegans as a Diagnostic Aid for Pancreatic Cancer
Pancreas, 50(5). 673-678, 2021 (peer-reviewed)
本論文は膵がんに対するスクリーニングとしての有用性を検証したものです。
膵がん104例と非がん95例(疾患対照、健常を含む)に対してN-NOSEは感度84.6%、特異度60.0%(全ステージ集計)を示しました。腫瘍マーカーと比較してN-NOSEは早期膵がんの有無との強い相関を認めました。また先行研究と同様に、N-NOSEは「がんの有無」のみ相関を認め、他の検体背景の影響はありませんでした。
7. Scent Test using Caenorhabditis elegans to Screen for Early-Stage Pancreatic Cancer
Oncotarget. 12:1687-1696. 2021 (peer-reviewed)
本論文は①膵がんの術後モニタリングに対するN-NOSEの有用性、②早期膵がんに対する盲検試験を検証したものです。
術前・術後に採尿を行った膵がん患者83例において、高い分離能をもって有意な術後N-NOSEインデックスの減少を示しました。また盲検試験の結果、早期膵がん群と健常群との間に有意差を認めました。本研究結果は、早期膵がんの検出にN-NOSEが有用であることを示しています。
2022年
8. 線虫C. elegansを用いた小児がんスクリーニング
小児外科 54(10). 1032-1035, 2022 (peer-reviewed)
本論文は小児がんスクリーニングに対するN-NOSEの有用性を検証したものです。
小児固形がん患児14例と対照21例に対してN-NOSEは高い分離能を示しました。検査の有効性を表すAUC値は0.859であり、感度は78.6%、特異度は85.7%でした。被験者背景の影響においても、N-NOSEは「がんの有無」のみ相関を認めました。本研究結果は、非侵襲的な小児がんスクリーニングとしてのN-NOSEの有用性を示唆するものです。
2023年
9. Clinical Possibility of Caenorhabditis elegans as a Novel Evaluation Tool for Esophageal Cancer Patients Receiving Chemotherapy: A Prospective Study
Cancers, 15(15):3870, 2023 (peer-reviewed)
本論文は食道がんに対する術前化学療法の効果判定や術後モニタリングに対するN-NOSEの有用性を検証したものです。
解析対象を完全寛解の症例に限定した場合、術前化学療法による腫瘍縮小効果(IRS1)および腫瘍切除効果(IRS3)を評価する際のN-NOSE検査の有効性を表すAUC値は高値(IRS1:
0.78、IRS3: 0.85)を示しました。本研究結果は、食道がんに対する術前化学療法の効果を予測するのにN-NOSEが有用である可能性を示しています。
*IRS: Index Reduction Score(治療前後におけるN-NOSEインデックス減少の程度を表した数値)